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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (20)
「……キミ、私くらい担いで飛べるよね」
「え?」
「じゃ、お代はここに置いておきますから。
 そう確認すると、舞は智子から預かっていた残りの金を置いてから、おもむろに鐘を掴んでひもを引きちぎった。
「え”!?」
「な――」
「早く!」
「――はい!」
 戸惑いながらも躊躇することなく舞を抱きかかえ、少年は一気に飛び上がる。夜空の虚空へ二人の姿は消えていく。
「ごめんなさーい、これもらっていき……っ」
 上空からそう舞は謝ったが、地上から見上げる女性は、殺意さえこもった、鬼のような形相で舞を睨み付けていた。
「そ、そんなに怒ることないじゃない、お金は置いていったんだし……」
 それとも、まさか本当に文化財とか……? ま、まさかねぇ……。
「それにしても、なんでこんな無茶苦茶なこと……」
 少年は木の枝を踏み台にしてさらに跳ぶ。胸に抱きかかえた、自分の倍近くある女性の自分より幼い行動に、少年は呆れた表情を見せた。
「そんな顔しないでよ。ほら」
 その少年の顔の前で、舞は鐘を揺らした。澄んだ音色が夜空に響く。
「僕の……ため?」
「当たり前でしょ。さっきは悪いことしちゃったし。お金も先生からじゃなく私から出すから」
「………………」
 少年は黙ったままだったが、赤らめ、うつむいたその表情が「ありがとう」と言っているように感じられて、舞はそれだけで満足だった。
「……先生の……ごはん」
「あ”」
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