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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (21)
 舗装された道から泥だらけの道に入り、トラックを停めて舞たち三人は斜面と木々に囲まれた山道を上っていく。
 早朝、日はすでに昇っていたが、吐く息は白く、霞がかった空気は凍てつくように冷たい。
 襟元を締めるようにして舞と智子は歩く。
「本当に寒いですね……」
「もう雪が降る頃でしょ」
「うちの実家ももうそろそろかな」
 舞は後ろを振り返る。感覚や体内温度をコントロールできる少年は当然寒がるそぶりは見せなかったが、誰よりも元気がないように見えた。腰には舞が強奪してあげた鐘がくくりつけられていたが、それは思いの外大きく、歩くたびに大きく振れていた。
「彼はここ、来たことないんですよね」
「多分ね」
「多分?」
「来ることは可能だけど。調べる能力もあれば、一日でここまで来て帰ることも不可能じゃない……けど」
 智子も後ろを振り返る。もう何百時間と見てきた少年の顔を。
「ないわね、それは」
 斜面を登り切ると、丘に出た。
「うわ……」
 舞は驚嘆する。だが感動はしない。畏怖はした。
 端から端まで百メートル以上ある丘は、固い地層の上に短い葉が生い茂り、白く霜が掛かっている。丘の左右の端には木々が並び黒い林となっている。空は真灰色に染まり手を伸ばせば届く天井のように丘全体を覆っていた。
 丘の端に、家が建っている。
「あれが……あっ」
 その方向へ、少年は飛んでいった。
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