KAB-studio > 風雅、舞い > 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (24)
風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (24)
「彼の父親は、この村の村長だったって話よ」
 舞と智子は家の奥へと進む。屋根のある部屋は日の光があまり差し込まず、暗闇の中で智子は舞の手を握った。
「村長って言っても投票とかで選ばれたんじゃなくて、昔からの世襲制みたいね。この高台は村で一番高いところみたいだし」
「それはちょっと……あんまりだと思います」
「ぎすぎすした話よね。彼らはHIVのことを知られたくなかったから、誰にも言わずに私達と共にここを去った――それが、この村を捨てたと思われたのかも」
 なんとなく、舞はここを、泉と重ねて見てしまう。
 この前訪れた玄き泉は、朽ち果て、誰もいない廃墟となっていた。
 雅樹の朱き泉は、かつて攻撃に遭い、壊滅寸前まで陥っていた。
 自分が生まれ育った碧き泉も、今回の件がなければ、全員東京に移り住んで何もなかったかのように忘れ去っていたかもしれない。
「彼が言ってました、APは死なない、それは間違ってるんじゃないかって。死んでまた生まれる、それが正しいことなんじゃないかって。でも――」
 舞は見上げる。黒い天井、その切れ目から見える空もまた薄暗く覆い被さっていた。
「こうして人間が作った物が死んだら……もう生き返らない、何も生まれない。なら、やっぱり死なない方がいいんじゃないかって」
「それは、彼の方が正しいんじゃない?」
「え?」
「生と死がサイクルになっていても、あくまで親と子は別人よ。命を紡ぐってことは、同じものを作り続ける事じゃなくて、異なるものを作って常に変わり続けることなのよ」
 智子も上を見上げる。暗い天井の向こうには暗雲、でもその中には「何か」がある。それは漆黒の闇夜かもしれないし、鮮烈な陽光かもしれない。
「この家が、今、死んでいるとしても、それまでここで彼の両親が住んできた。そしてその両親が彼を作り、彼がまた何かを成せば、それは、彼の望むサイクルの中に生きている、っていうことなのよ、きっと」
 検索