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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (26)
「……なんなの、これ……」
 洞窟の中で、舞は見上げる。
 家の下に、洞窟があった。立体的な蜘蛛の巣状の穴が縦横に張り巡らされている。外と継ながっているのか強い風が流れている。それが長年掛けて道を造ったのかもしれない。
 上を見上げてはみるが、ようやく慣れた目でも、光がほとんど届かないため、かろうじて頭上に穴が空いていることが分かるだけだった。
 むしろ、水の力を使って空間を把握する方が比較的楽だった。風が強いにも関わらず、周囲には異常なほどの水蒸気が満ちていた。湿度が高かったために、舞は空気を操り、直接床に叩き付けられることを防ぐことができた。
 だが、無理な方向転換で穴をくぐって来たため、途中で智子を離してしまっていた。
「頭とか打ってないといいんだけど……」
 手を伸ばしても、智子の場所までは把握できない。
 それ以前に、思うように水を操ることができなかった。
 普段のように水を感じる事ができない。風の違和感がそうさせるのか、ここに満ちている水が特殊なのか、それとも自分が異常なのか。
「とにかく先生を見つけないと……それとも、彼を探した方がいいのかな」
 少年は、先にここへと来ているような気がした。それなら家にいなかった説明もつくし、何よりこの場所は異常で、そこに少年が関係しているように感じられた。
「って、探すなんて無理よね……」
 洞窟の構造が分からない以上、闇雲に歩くよりは無理をしても通ってきた経路を戻る方が確実だった。
 舞は手を広げ、水蒸気と共に風を巻き上げて身体を持ち上げられないか試してみる。
『おい、いたぞ!』
 その声は、鳴動する風がそう聞かせた幻聴かと舞は感じた。だが直後、舞の背後に光が点り、鋭い何かが舞の大腿を貫いた。

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