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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (30)
『おい、やめろって!』
『こいつが、こいつが成宮を殺ったんだ!』
『何者なんだよこいつ、なんで死なないんだよ……』
 その言葉は、ようやく、少年の耳に届いた。
 息絶えた母親の手をゆっくりと離す。母親の顔は、笑っていた。
 その母親の脇腹には、自分の背に二本刺さっている物と同じ、二叉の銛が突き刺さっていた。
「……おまえら」
 少年はゆっくりと立ち上がり、後ろを振り向く。
『ひぃっ!!』
 少年を囲むように、三人の男がいた。
 顔には、木でできた仮面。鬼のように厳めしい形相、額には角。その面があるために、声がくぐもって聞こえ、表情は見えない。
 男の内、一人は二叉の銛を持ち、もう二人は武器を持っていない。
 あの銛に、母親は殺された。
 銛を持つ男を睨み付ける。男は猫のような声を上げて尻餅を付く。
「母さんがどれだけ痛かったか――」
 少年は、母親に突き立てられた銛を掴み――
「思う存分味合わせて――?」
 引き抜く――ことができない。
「岩に……? ッ!」
 振り向こうとした瞬間、三度、銛。河守と呼ばれた男が、尻餅を付いた男から奪った銛を少年へと投げつけ、それは少年の胸に突き立てられた。
「……ふん」
 少年は口から血を吹きながら不敵な笑みを浮かべ、胸に突き立てられた銛の柄を掴む。
「……なんで?」
 銛は、抜けない。
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