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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (32)
「あなた達、いったい何者ですか」
 舞は冷静に、目の前の男達に尋ねた。
 男達は木でできた鬼の仮面を被り、手に二叉の銛を持っている。それら古風な道具とは対照的に、服はコートやダウンジャケット、左手には懐中電灯や大型の無線機を持っていた。
 警戒しているのか距離は離れている。通路が狭く奥まではよく見えないが、一番手前にいる男の後ろに5人くらいはいるようだった。
 その一番手前の男が、舞に訊く。
『質問するのはこっちだ。おまえこそ何者だ。村長の知り合いか』
 その声は、面と風でくぐもっていたが、舞には女性のものに感じられた。
「村長? 私はこの村の出身じゃないからよく分からないんだけど」
 そうはぐらかしながら、意識は傷口に集中させる。左大腿に、銛の片方の先が深々と刺さっている。
 体は水分を多く含む。これまで勉強してきた医学知識と組み合わせて、まず止血をし、痛覚を遮断し、その上で銛を引き抜く――はずだった。
『ごまかすな。鳳という名前を知っているだろう。我が村の鎮守であり、災厄の神である鳳家の関係者か』
 だが、銛はびくともせず、そもそも血が止まらない。太い血管や神経は傷つけていないようだったが、それでも赤い液体が傷口から流れ出るのを止めることができない。
「何それ矛盾してるわよ、守り神なのに災いの神って」
 よく平静を装って答えられる、と自分でも感心する。焼けるような痛みを脳内麻薬で緩和させるが、それにより意識が混濁しつつあるのを感じていた。
『鳳家は人間ではない、鬼の一族なのだ』
「え?」
 APだったことを知っている? ……いやそうじゃない、この人は彼らがここを出る前のことを言っている、でも元々人間じゃないって……。
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