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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (34)
 沈んでいく。
 深く深く、沈んでいく。
 黒い黒い闇の中へ。
 全てを飲み込む地の底へ。
 これから死ぬ……もう体に突き刺さった銛を抜く力も気力も沸かない。
 だから、このまま意識が消え、お母さんの所へ行く……と思っていたのに。
 妙な不快感。
 死に臨んで、なお恐怖する心。
 もしかして、本当に地獄というものがあって、そこへと向かっているのだろうか、とすら少年が思った時。
 声が、届いた。
『……お前は、何者だ』
 ……それは僕にも分からないな。僕は結局なんだったんだろう……。
『お前はヒトではない』
 それは知ってるけど。
『我の知る血に似た匂いだ。それもふたつ。ひとつは、我のよく知る匂い、もうひとつは、古き友、懐かしき匂いだ』
 昔って、僕は何年も生きてないんだけどね。
『お前の父親は、母親は』
 お父さんはここにはいないし、お母さんは死んじゃった……このすぐ上にいるよ。
『あれか――なるほど』
 何か分かったの? 僕は何者なの?
『お前には適正がある』
 適正? 何の。
『我が力を受け継ぐ資格がお前にはある。お前の血には、我の力を赦す素が含まれている』
 僕の血……お母さんの血……。
『お前の血は、過去の遺物によって強められている。本来であればお前には力を持つだけの器はなかったが、それを今、お前は備えている』
 僕に……力をくれるの? APよりも強い?
『異なる種類の力だ。お前が持つミナクートの力は取り除くが、代わりにミナクートすら畏怖する龍の力を授けよう』
 ……どちらにしろ僕には選択肢がないんだ。だから、僕に力を――。
『では、洗礼を行う』
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