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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (38)
 胸を誤って刺された男は体を痙攣させ、刺してしまった男は手を振るわせ動くことができない。
 無線機を持った男はその場でしゃがみ込み、言葉にはならない何かをただただマイクに叫んでいた。
「あれ、あとひとりいたと思ったけど……」
 奥に逃げたのか、足音が遠ざかっていった。
「まぁいっか……で」
 壁際に押されていた女は、胸を押さえ、咽を鳴らして、その場にへたり込んだ。
「片方の肺を凍らせたから。息するのも辛いでしょ」
『ひ……ひとで……なし……』
「どっちが!」
 舞は涙を散らして叫ぶ。
「あの子が、あの子がどんな気持ちだったか、故郷がこんなで! お母さんが村の人に殺されて! 自分も……なんで、なんで……」
『そんなの……あのままじゃ私達だって……人並みの生活が……やっと街も賑わって……それも許されないの……』
「……だからって、だからってあなた達のしてきたことはっ……」
 叫び疲れ、息が上がってくるに従い、舞は冷静さを取り戻していく。
 そのとき、遠くから足音、そして。
『ギャアアアアアア!』
 舞は奥へと振り向く。捕り逃した男が、逃げた先から戻ってくる……叫び、失った右手首を押さえながら。
 岩陰から、少年が現れる。
「!! 君、生きてたの!?」
「あ、舞さん」
 だが、完全に現れた少年の顔は、血にまみれていた。その瞳には、狂気。
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