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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (39)
「きみ……いったいどうしたの?」
「うーん……ちょっと待っててくださいね」
 少年は手を振るう。
『ヒッ!!』
 目の前に倒れ込んでいた男に、数多の風が襲いかかる。小石が高速で体の周囲を周回し、服を、皮膚を、肉を、骨を切り刻む。声すらも風に掻き消え、開けた口さえも引き裂かれた。
 少年の頬を水槍がかすめ、風が止まる。男は肉塊のようになっていたが、かろうじて息はしていた。
「……何するんですか」
「やっちゃだめ」
 舞は、反射的に少年の行為を止めていた。それを、少年は嘲り笑う。
「何言ってるんです? それ、舞さんがやったんでしょ?」
 舞の背後には、死体。肉塊となった死体、体を貫かれ血溜りを作る死体、銛で突かれた死体、刺してしまった廃人、恐怖に取り憑かれた廃人、片肺を失った女。
「分かってる!!」
 それら全てが覆い被さったかのように舞は体を折り曲げ、叫ぶ。
「分かってる……やっちゃいけなかった……なんで、なんでやっちゃったんだろう……」
 涙が止まらない。
 やっちゃいけなかった。
 殺しちゃいけなかった。
 一瞬。
 母の、父の、兄の、俊雄の、恭子の、視線を感じた。
 背筋が凍る。
 好きな人が、愛している人が、侮蔑、批判、嫌悪の瞳を向けている、そう錯覚して、
「ああああああああああああ…………」
 叫び声にもならない声を、舞は上げた。
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