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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (40)
 涙と鼻水と唾液が数滴、岩の地面に滴る。
 それを拭って。
「……だめ、きみにはそういうことさせない」
「ものすごく矛盾してるんだけど」
「矛盾してない! 私は……やっちゃいけないことをした、そう分かったから、きみにはさせないから」
「ふぅん」
 少年は舞に対して正対する。そして右腕を振り上げ、
「どうやって?」
 振り降ろす!
「!!」
 突風。
 まるで壁のような空気の塊が舞に当たり、跳ね飛ばす。舞は水榴を体に纏い、壁に叩き付けられながらも体を護ってすぐさま攻撃態勢を取る。
「分かるでしょう、僕はね、あなたと対等の力を得たんです」
「まさか……」
 風の力、白き泉の能力。
 でも力業、アイディアがない、頬の傷、回復していない、移動能力落ちている、APじゃない、増長している、洗礼後の特徴かも、そこを突く。
 舞は、不敵に笑む。
「でも、その程度なんだ」
「まさか。今のは手加減したんです。じゃあこれは――」
 少年は大きく右腕を振りかぶり――
「遅い」
 振り上げた前腕に氷の刃が突き刺さる。
「ッ――――!!」
 APだった時には感じなかった、強烈な痛み。思わず少年は右腕を押さえる。その隙を逃さず舞は踏み込む。
「ち、近づけさせないっ!」
 少年は左腕を振るう。同時に舞も両腕を振るえば、蜂の巣状に白い光がきらめき、空気の塊は舞に直撃する前に霧散した。
「そんな――」
「ごめんね」
 舞の右手が振り抜かれ、一メートルの赤い刃、自らの血で鍛え上げた鮮血の剣が少年の頸動脈を掻き切る。
 少年の咽から血が吹き出し、急激な失血で少年の意識が飛び膝を付く。そこを舞は抱きかかえ、咽を手で押さえ、凍り付かせて止血する。
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