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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (41)
 気を失った少年を、舞は優しく抱き上げる。
「智子さんは……」
 洞窟の状態が完全に把握できる今は、智子の場所も把握できた。智子は最初に離れた場所から動いていないようだった。
 調べたくはなかったが、少年の母親の場所も探す。そして、絶命していることを確認する。智子を助けたあと、死体を回収するルートを頭に描いてから、その場を離れようとする。
 離れる前に、振り向く。女が、壁に背を持たれかけ、ふいごのように息を荒げて、舞を見ていた。その瞳は、憎しみも嫌悪もなく、謝罪も贖罪もなく、ただ、舞が去るのを見届けようとしているだけだった。
「……まだ助けられる人もいるから。救急車も呼んでおくから」
『……ありがとう……でも……』
 女は、うつむいて、言った。
『もう……来ないで……』
「もちろん……って言いたいけど……」
 舞は、抱きかかえる少年の顔を見る。
「彼にとって、ここは、ふるさとだから」
『…………そうね…………』


 少年が降りてきた階段から、舞と智子が出てくる。智子は少年を、舞はその母親を背負っている。
「ううっ、外ならもっと暖かいと思ったんだけど違ったわね、早くトラックまで戻りましょ」
 舞は言葉無くうなずく。
 智子は、自分が気を失っていた間に起きたことを簡単に説明されたが、その内容は深刻すぎた。研究の興味がわく面もあったが、自然とその気は起きなかった。今はただただ、この場を離れたかった。
「まずは彼の治療ね、APじゃなくなったならちょっと大変かもしれないわね、早く東京まで戻りましょ」
 トラックまで戻る途中、山の麓、温泉街が目に入る。
「研究のためにまた来ることになるだろうから、そのときは私も温泉入ろうかなー」
「……そうですね」
 あれば、の話だけど。
 舞は、あって欲しい、願わくばまたあの温泉街を――そう、贖罪した。
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