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風雅、舞い - 第十六章 崩壊 (2)
「右、左、上!!」
 少年は声と共に腕を振るい、それに合わせて声で示した方向を風が切り裂き飛来する水榴を断ち切った。はじけ飛んだ水しぶきが白い空間へと消える。
「遅いよ!」
 舞のかけ声と共に少年の四方に水が集まり、中央の少年へと向けて矢のごとく放たれる。
「このっ!!」
 舞の真似をして、声で指示を出さないようにする。だが集中が効かず風の飛ぶ方向が若干ずれ、水榴に当たらない。
「!……っ」
 体を捻り一矢を躱すが、二矢目は躱せず、少年の顔すぐ側で止められた。
「はぁっ、はぁっ」
 少年は肩で息をし、舞に悪態を付くことも、いいわけをすることもできなかった。
 舞も、既に何度となく指摘していた点だから、何も言わない。
 恐怖。
 少年は手を見る。その手は震えていた。
 APだった時には感じなかった。死というものはとてつもなく遠い存在だった。だが、気体を操る力と引き替えに得た「人間の体」はあまりにも脆弱で、その恐怖は体を硬直させた。
「はぁっ、はぁっ……くそっ」
 加えて、判断力の低下、体力の圧倒的不足、APの時には当然のようにあったものがないという現実が、少年に限界を感じさせていた。
「空気を操れるっていうのは、いっつも弾が足りない私から見ればかなり便利な気がするんだけどね」
「……能力の高さは認めますよ。でもヒトの体では限界があるんです。朴さんみたいな反則的な体でもないし、風の能力じゃあなたみたいに体をコントロールすることもできないし」
「だったら、その中でやりようがあるでしょ?」
「……」
 APではない、少年はそれを大きなハンデと感じていた。
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