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風雅、舞い - 第十六章 崩壊 (4)
 街路樹が囲む四車線の道路一杯に、渋滞した車が並ぶ。
 クラクションが鳴り響く車列の上を、遥が跳ねていく。青が引かれた白いドレスが風にはためき、銀色のテールが追走する。
 その後ろ髪を掴もうとする手のように、橙色の火線が無数に走る。橙炎は次々と車の屋根に直撃し爆発する。フロントガラスにひびが入り叫び声があがる。
「橙炎――」
 遥へ向かって直線的に車上を走る雅樹。その周囲に、橙色の炎が二十八浮かぶ。
「掃射!!」
 腕を振るえば端から炎が弾け、美しい光跡を描いて遥を射る。だが、それは舞うように跳ね回る遥にことごとく躱される。
「なぜ当たらない!!」
 橙炎の速度は十分速いはずだった。着弾点をイメージして放つのだから、命中精度も高い。移動する先を予測して、躱しきれない数を放っている――それなのに躱される。無数に走る火線、その中からわずかな隙間を見いだし、タイミングを合わせて体を擦り込ませる――不安定な車上で、わずかな時間の間に判断してそれを行っていた。
 なら、一撃を確実に当ててやる。
「赤――なッ!」
 大きく踏み込み、手に赤い炎を点らせる、その一瞬の隙、注意が攻撃に注がれた瞬間、遥の背中が現れ、かかとが雅樹の顔面を削り飛ばした。雅樹の体が真横に回転し吹き飛び、通りの喫茶店へと突っ込む。
 客や店員が逃げ出す中を縫って、遥が店内に入る。床にはガラス片が敷き詰められ椅子とテーブルが倒れていた。その一番奥、受け取りカウンターの脇で、雅樹が起きあがろうとしていた。
「……お前、異常だ」
「その一言で済むなんて、安いプライドね」
「……」
 雅樹は立ち上がり、両手に蒼い炎を点らせた。
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