「僕には、弟がいました」
その、「いました」という表現。
「5つ下の弟でした。僕よりもおとなしい、物静かな方でした」
「シーバリウよりもなんて、よっぽどね」
「本当です。ちょうちょも怖がるくらいでしたから」
「チョウチョねぇ」
「……母は」
言葉を、切る。
「母は……僕よりも、弟の方を愛していました」
「え……」
「その頃は敵国に囲まれ、度々小競り合いがありました。僕もおとなしい方でしたから、王としては相応しくない、そう思う者も多かったんです。だから……」
ジャージの手を、強く握る。
「母と大臣が、弟を王に仕立て、謀反を起こしました」
「内乱……」
「はい」
シーバリウはうなずく。
「……父も、残念ながら求心的な存在ではなく、収拾のつかない状態となってしまいました。自然と僕が国の代表として弟と対立する形となってしまい、右も左も分からないまま、必死に……とにかく必死に……がんばったんです……」
声が、震える。
「何度となく死にかけました。何人もの人を殺しました。そして……」
汗ばんだ手が、震えていた。
「弟を、手に掛けました」
その震える手を、ジャージが強く握り返す。
「今でも憶えています。腹を斬った感触、止めどもなく溢れてくる血、最期の言葉」
――仕方なかったんだよ、兄さん。
「母は自害し、父は何事も無かったかのように為政を続けました。その隙を突いて近隣諸国が攻め入ってきましたし、僕もそのことだけを悩む暇はありませんでした。それでも……」
涙が、手の甲に落ちる。
「弟のあの姿だけは、忘れられません。だから……なぜ母は、なぜ母は……と思うと……」
「シーバリウ……」
もどかしかった。
今すぐ、抱きしめたかった。
「わかりました」
「?」
シーバリウは顔を上げ、泣き腫らした顔で、にっこりと笑んだ。
その、「いました」という表現。
「5つ下の弟でした。僕よりもおとなしい、物静かな方でした」
「シーバリウよりもなんて、よっぽどね」
「本当です。ちょうちょも怖がるくらいでしたから」
「チョウチョねぇ」
「……母は」
言葉を、切る。
「母は……僕よりも、弟の方を愛していました」
「え……」
「その頃は敵国に囲まれ、度々小競り合いがありました。僕もおとなしい方でしたから、王としては相応しくない、そう思う者も多かったんです。だから……」
ジャージの手を、強く握る。
「母と大臣が、弟を王に仕立て、謀反を起こしました」
「内乱……」
「はい」
シーバリウはうなずく。
「……父も、残念ながら求心的な存在ではなく、収拾のつかない状態となってしまいました。自然と僕が国の代表として弟と対立する形となってしまい、右も左も分からないまま、必死に……とにかく必死に……がんばったんです……」
声が、震える。
「何度となく死にかけました。何人もの人を殺しました。そして……」
汗ばんだ手が、震えていた。
「弟を、手に掛けました」
その震える手を、ジャージが強く握り返す。
「今でも憶えています。腹を斬った感触、止めどもなく溢れてくる血、最期の言葉」
――仕方なかったんだよ、兄さん。
「母は自害し、父は何事も無かったかのように為政を続けました。その隙を突いて近隣諸国が攻め入ってきましたし、僕もそのことだけを悩む暇はありませんでした。それでも……」
涙が、手の甲に落ちる。
「弟のあの姿だけは、忘れられません。だから……なぜ母は、なぜ母は……と思うと……」
「シーバリウ……」
もどかしかった。
今すぐ、抱きしめたかった。
「わかりました」
「?」
シーバリウは顔を上げ、泣き腫らした顔で、にっこりと笑んだ。